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刺激応答性発光分子

外部の刺激に応答して発光する分子の開拓は、機能性分子研究における重要なテーマです。 これまでに、酸、塩基、その他の反応性分子などを添加することで、 π共役拡張など分子構造そのものを変化させることによって発光性を高める 化学刺激応答性の発光性分子研究が行われてきました。分子の化学変換を伴わない非化学的刺激による発光制御法の代表が、 電気を通すことによって、分子の電子状態を変化させ発光させるエレクトロルミネッセンスです。この手法では、 世界中の企業研究グループが携帯電話のディスプレイや照明器具などの発光デバイス開拓を目指して精力的な研究を展開しています。 我々は、分子が集合する際の分子の並び方が、分子の発光に大きな影響を及ぼすことを明らかにし分子集合と発光特性の関係を研究してきました。 ごく最近、短い超音波を照射してゲル化させるという、我々が独自に見出した分子集合法で、特定の白金錯体の分子集合を行わせると、 発光しない溶液を超音波で瞬時にリン光発光させることが可能になりました。生成した発光ゲルは安定で、超音波照射をやめた後も発光し続けますが、 加熱して本の溶液に戻すと強いリン光発光は消滅します。これは、音響と熱によって、リン光発光をOFF-ON制御できる極めて特異な例です。


図1 環状ニトロンの合成はむずかしい

図1 短い超音波照射による瞬時発光

  

  



超音波照射によるゲル化と発光特性の構造特異的発現

洗濯ばさみ構造を有するtrans-ビス(サリチルアルジミン)白金2核錯体は、超音波照射によるゲル化において、 非常に高い構造特異性を示します。2つの白金部位をつなぐ炭素鎖が5と7のもので、anti-配座のものだけが、 有機溶液の超音波照射でゲル化します。炭素鎖が5のanti-1aではラセミ体だけがゲル化し、 光学的に純粋な錯体ではゲル化しません。炭素鎖が7のanti-1cでは、ラセミ体のゲル化は遅く、 光学的に純粋な錯体ではシクロヘキサン溶液で4倍速くゲル化が進行します。Syn配座を有する2核錯体、 リンカーの炭素鎖が5と7以外の2核錯体、単核錯体などは、ゲル化能力を持ちません。 この非常に構造特異的なゲル化が進行する場合にのみ、溶液は超音波照射に伴い、 365nmの励起光の照射下で黄色にリン光発光します。下図に示すように、anti-1a (n=5)およびanti-1c(n=7)のシクロヘキサン溶液は、いずれもがほとんど発光能を示しませんが、 超音波照射直後にゲル化し、上述のゲル化能力に応じて発光します。


図2 構造式


図2 発光写真

図2 超音波照射前後での発光変化:上から(±)-anti-1a, (+)-anti-1a, (±)-anti-1c, (+)-anti-1cのシクロヘキサン溶液。左から超音波(44 kHz, 0.31 W/cm2)照射前、3秒照射、10秒照射。

 

  



超音波照射時間による発光強度制御

この現象では、超音波照射時間によって生成したゲルの発光強度を制御できる点が重要です。 下図に(±)-anti-1aおよび(+)-anti-1cのシクロヘキサン溶液/ゲルにおける420nmでの励起光照射下での発光スペクトルを示します。 超音波照射時間が長くなるほどそれぞれ551、554nmに極大波長を持つ超音波ゲルの発光強度が増大する様子がわかります。


図3 JACSの表

図3 超音波照射(44 kHz, 0.31 W/cm2)による(±)-anti-1a (a) および(+)-anti-1c (b)の
シクロヘキサン溶液/ゲルの発光強度変化

 

一連のanti-1錯体でのリン光の強度変化の超音波依存性は、上述したそれぞれのゲル化能力に大きく依存し、 全く異なるプロファイルを示します(下図)。(±)-anti-1aでは強い超音波依存性を示しますが、 超音波照射でゲル化しない(+)-anti-1aでは、超音波照射時間にかかわらず発光強度は変化しません。 これとは対照的にリンカーの長いanti-1cでは、ラセミ体よりも(±)-体のほうが高い発光特性と超音波依存性を示します。


図4 JACS依存性グラフ

図4 anti-1aおよびanti-1cのシクロヘキサンゲルにおける発光強度の
超音波照射依存性(44 kHz, 0.31 W/cm2

 

  



超音波照射による発光機構

謎だらけの発光現象を解くための第1の鍵は、溶液状態からゲル状態に変化する際に劇的に変化する分子集合の様態変化にあります。 電子顕微鏡による詳細な観察から、anti-1aのシクロヘキサン溶液は直径nmのコロイド状ナノ粒子として安全に存在しており、 これに超音波が照射されることで、微結晶を経由して幅50nmの補足均一な繊維状構造体が生成することが明らかになっています。コロイド溶液状態では、 非常に弱い分子の外側でのルーズなスタッキングによって弱く安定化されているために、分子運動性が高く無輻射失活が誘起されます。一方ゲル繊維では、分子内部での連続嵌合型のスタッキングにより、 会合分子は大きな束縛を受けることでリン光発光のための効率の良い光によるエネルギー移動が行われます。超音波照射時間が長くなると、より大きなソノクリスタルが生成し、 そのためにより高次会合したゲル繊維が生成することが電子顕微鏡等によって確かめられています。より高次の会合はより高い分子束縛を誘起し、その程度に応じた効率での光エネルギー移動が行われることで、 発光強度の超音波応答性が実現できると考えられます。


図5 JACSの模式図

図5 超音波照射により誘起されるanti-1aの分子集合とリン光発光の模式図